色彩文様研究所

蜘蛛文

蜘蛛文

御利益諸願成就 待人祈願

我が国最古 の文様は土器と銅鐸と埴輪で知ることができる。江戸時代に香川県から出土したといわれる「袈裟襷文銅鐸」に蜘蛛と蟷螂(かまきり)・蜻蛉・鳥・魚・すっぽん等が鋳出されている。その表現は極めて単純で、象形文字に近いものだが、それにもかかわらず蜘蛛の感じがあらわれている。中国では唐代に蜘蛛が壁にぶら下った形から壁銭と称し、又宮中の妃がこれを見れば、その夜は皇帝の寵を専らにする吉兆として欣び、喜子と呼んだ。久しく子供と別れていた母が着物に蜘蛛の下っているのを見たら、子供が帰って来て互に喜んだという俗話から蜘蛛を喜母ともいうようになった。またこの虫が着物につけば親しい客が来るものとして、親客と名づけている地方もある。さらに蜘蛛の集るのは吉兆であるとし、蟢または蟢蛛と書くこともある。それ故蜘蛛を文具・什器・書箋等の文様とする。しかしわが国には一部の人のみで一般には行なわれない。
◆ 蜘蛛の巣文
桃山時代の作で滋賀県来迎寺にある蒔絵硯箱は蜘蛛の巣を文様としたもので類例を見ない硯箱である。真四角に近い形で、黒漆大面取の金蒔絵。蓋表を中央斜に稲妻形に劃し、一方は御簾を描き、他の半分には蜘蛛の巣に板屋楓の葉が散って引っかかった様を描いている。異例の作品である。[1]

文様の「蜘蛛の巣」
蜘蛛の巣

文献等の用例


脚注

  1. ^ 岡登貞治『新装普及版 文様の事典』東京堂出版 1989年