色彩文様研究所

鹿の子文

鹿の子文

御利益

シカ(鹿) の毛色にある白い斑紋、鹿の子斑(かのこまだら)のような文様。特に、鹿の子絞りで染め出した文様。鹿の子絞りは、布を結びしばって染色し白い斑点文様を染め出す絞り染め。
くくりを寄せた数によって三つ目結、四つ目結、九つ目結、十六目結などがあり、一面に配したのを繁目結(しげめゆい)と言い、その目の細かいのを鹿の子結(かのこゆい)と言う。四つ目結に当たる、絞りが四角形で四五度の角度で一面に並ぶものを「匹田(ひった)」と称し、「疋田」とも書く。なお、京で染めた鹿の子を特に「京鹿の子(きょうがのこ)」と呼ぶことがある。[1]

鹿 の背の白い斑紋を「鹿の子斑」といい、これに似よった斑になったものをすべて鹿の子と呼ぶ。菓子・料理などに鹿の子の名のつくものがあるが、染織物にも鹿の子織・鹿の子刺(ざし)・鹿の子地・鹿の子紋・鹿の子繍(ぬい)等がある。いずれも鹿の子風の斑・文様・配置・色調になったものである。鹿の子織は高浪織ともいって鹿の子文が凸凹になってあらわれている。鹿の子刺は足袋底用綿織物が鹿の子斑の感じからの名称である。鹿の子地は極めて地薄の縮緬地で鹿の子絞に専ら使用されるからの呼称である。鹿の子絞は絹布や綿布に白斑の小さい丸形の鹿の子を染め出したもので、京鹿の子と通称する。鹿の子繍は刺繍で鹿の子を繍いあらわすもので星繍の技法による。鹿の子のやや大きくて四角形のものを疋田(ひった)鹿の子、鹿の子の目のつんだ滋目(しげめ)鹿の子、鹿の子を特に斑(まだら)に散らした斑鹿の子(むら鹿の子)と呼ぶものもある。[2]

文様の「鹿の子絞り」
鹿の子絞り

文献等の用例

  • 随筆・守貞漫稿 – 一七「縮緬の鹿子絞りは緋を専とし」(1854)
  • 夢の女<永井荷風>一五「紫繻子に匹田染(ヒッタゾメ)の唐縮緬の腹合帯」(1903)
  • 東京の三十年<田山花袋>その時分「娘は島田髷(しまだまげ)に鹿の子しぼり、赤い前懸(まへかけ)などをして歩いた」(1917)
  • 食後の唄<木下杢太郎>町の小唄・本町通り「あんな匹田(ヒッタ)の大模様」(1919)
  • 真理の春<細田民樹>手形の手品師・一〇「鹿子絞(カノコシボリ)の昼夜帯を小粋に結び」(1930)

脚注

  1. ^ 『文様の手帖』小学館 1987年
  2. ^ 岡登貞治『新装普及版 文様の事典』東京堂出版 1989年