色彩文様研究所

松文

松文

御利益神仏加護 延命長寿

中国では 冬でも落葉せず緑を絶やさない松と寒中でも真っ直ぐに伸びる竹、早春に花をつける梅の三種を歳寒三友として、冬の寒さ(逆境)に耐える姿をたたえた。また、長寿の象徴ともされ、蓬莱山に生える樹と考えられたため、吉祥文様として用いられた。
日本でも古くから縁起のよい木として、年のはじめに門松(かどまつ)を立てて神を迎え、一年の幸せを願った。『万葉集』にはすでに「千代松」という言葉がみえる。こうした吉祥の意味からさかんに文様に用いられるようになった。
平安時代後期以降、松を用いた意匠として、笠松、若松、松葉、松葉、唐松、老松、若松菱などのバリエーションが成立し、豪華な衣装に、また、工芸品などに多く用いられた。とくに、江戸時代には染織技法が多様化したため、着物の柄が豊富になり、松文様も多彩になった。竹や梅、鶴や亀などと組み合わせたものも多い。[1]

は常緑であることから常磐木と呼ばれ、古くから吉祥樹とされた。松の枝振りだけでなく、松の実や葉の形態の面白さから、様々な形にデザインされた文様がある。[2]

マツ(松) の幹・枝・葉または松かさを図案化した文様。竹・梅と並んで吉祥文様の一つ。樹齢の若い小さい松の文様を「小松文」「若松文」とも言うが、正月の門松とするものを若松、正月の子の日に引いて遊ぶ松を小松と呼んで区別している。そして、樹齢を経た松は「老松(おいまつ)」と言う。
日本では神の依(よ)る木として門松などにされ、古くから長寿や慶賀を表すものとして尊ばれている。[3]

は長寿延命の吉祥として「常磐の松・松の齢(よわい)」といわれ、また節操の高いことを寓意して「松柏の操・歳寒の松柏」ともたとえられる。これらの関心が必然的に絵画・文様・庭園・盆栽にあらわれ、我々日本人の日常生活となっている。松と動物文・松と花文・松と人物器物文など様々の取り合わせ文様が作られている。また松の木だけで文様とされていることはいうまでもなく、「老松・若松・松原・松木立」などがある。鍋島焼の三足台の皿と大皿の松の木だけの染付文様は雄勁そのものである。絵唐津の大皿に描かれた松は只1本、飄々として松韻を聞く思いがする。「末の松山釜」といわれる茶釜の松の無造作に枯淡の風情はまさに茶道にふさわしい表現である。江戸時代に作られた人物箔絵東道盆(とんだぼん)の松の立木は針金をくねらせたような幹も梢も同じ細さで、枝は鶴が翼を広げて舞うが如くで、対談する人物の雅懐そのものである。[4]

文様の「松梅文様水干」
松梅文様水干
金剛峯寺
文様の「青海波に松」
青海波に松
文様の「松唐草」
松唐草

文献等の用例

  • 源氏 – 初音「今日はねのひなりけり、げに千年の春をかけていははん、ことはりなる日なり。姫君の御かたにわたり給へれば童、下仕へなど、おまへの山のこまつひきあそぶ」(11世紀前)
  • 俳諧・歳旦発句集 – 寛文九年「若松は老せぬ門のかざりかな<政友>」(1669)
  • 俳諧・発句題叢 – 冬・下「老松や春近づきし葉のしまり<墨友>(1820)

脚注

  1. ^ 並木誠士『すぐわかる 日本の伝統文様』東京美術 2006年
  2. ^ 『日本・中国の文様事典』視覚デザイン研究所 2000年
  3. ^ 『文様の手帖』小学館 1987年
  4. ^ 岡登貞治『新装普及版 文様の事典』東京堂出版 1989年