色彩文様研究所

撫子文

撫子文

御利益

秋草 は平安時代から好まれたモチーフであった。平安時代は伝統である和歌や歌絵の知識に基づく叙情的な表現で、秋草によって秋そのものを表現するという理想美があった。しかし桃山時代になると全く異なり、図柄が大きく力強い。ススキ・野菊・萩・桔梗・女郎花・撫子などの秋草はそれぞれに自己主張し、モチーフの存在そのものが表現されている。このような生き生きとした表現は万人に好まれ、秋草を図柄にしたモチーフは安土城や伏見城などを始め貴族や武士の室内装飾に盛んに使われた。[1]

撫子 は「やまとなでしこ・かわらなでしこ」ともいう。8・9月頃淡紅色か稀に白い優雅な花を開く。観賞用として栽培される。これを文様としたもので「撫子文蒔絵硯箱」が東京国立博物館に所蔵されている。これは江戸初期の山本春正の作品で、蓋表に黒漆平目地の中に撫子を研出蒔絵としたもので、蓋一面に乱れ咲く花は優美で、婦人用硯箱にしてよい。五弁の花が紋章にされ、岐阜の瑞龍寺塔頭(たっちゅう)の開善院にある斉藤道三の肖像画の中にこの紋章の旗が描かれている。撫子紋には「唐撫子・変り撫子・捻(ねじ)撫子・三つ盛撫子・秋月撫子・枝撫子・撫子枝丸」などの種類がある。[2]

文様の「撫子と宝唐草」
撫子と宝唐草
文様の「段地霞撫子蜻蛉模様唐織」
段地霞撫子蜻蛉模様唐織
林原美術館
文様の「撫子模様肩衣」
撫子模様肩衣

文献等の用例


脚注

  1. ^ 『日本・中国の文様事典』視覚デザイン研究所 2000年
  2. ^ 岡登貞治『新装普及版 文様の事典』東京堂出版 1989年